「そろそろ会社の引き継ぎを考えないといけない。でも、いつから何を始めればいいのか分からない」
そんな悩みを抱える経営者の方は少なくありません。
事業承継は、思っている以上に時間がかかります。一般的には5年から10年かかると言われており、「まだ先の話」と後回しにしていると、準備の時間が足りなくなってしまいます。
この記事では、事業承継は何年前から準備すべきなのか、スケジュールの立て方と準備の流れを、福井県内の調査データも交えながら分かりやすく解説します。
事業承継の準備は何年前から始めるべきか
結論からお伝えすると、事業承継の準備は承継の5〜10年前から始めるのが理想です。ここでは、なぜそれほど時間がかかるのか、実際の調査データとあわせて見ていきましょう。
一般的には5〜10年前からが目安
事業承継には、大きく分けて3つの時間が必要になります。
後継者を選んで育てる時間、株式や事業用の資産を移す時間、そして従業員や取引先に理解してもらう時間です。それぞれに数年単位の期間がかかるため、全体では5〜10年を見ておくのが一般的とされています。
たとえば後継者の育成だけを考えてみましょう。
営業や経理といった各部門を経験させ、経営者としての判断力を身につけてもらうには、最低でも5年ほしいところです。社内や取引先から「次の社長」として認めてもらうにも、それなりの時間がかかります。
さらに、自社株を後継者へ移すには、贈与税や相続税の負担を考えた計画が欠かせません。
税金の対策は1年や2年で終わらないことも多く、早く始めるほど選べる方法が増えます。逆に時間がないと、税負担の重い方法しか残っていない、という事態にもなりかねません。
福井県の調査でも「準備に4年以上必要」が6割超
「5〜10年」という数字は、決して大げさな話ではありません。
福井県商工会議所連合会が2023年に実施した「事業承継に関するアンケート調査」によると、すでに後継者が決まっている事業所でも、その6割以上が「引き継ぎまでに4年以上の準備期間が必要」と回答しています。
回答の内訳は次のとおりです。
この表から分かるのは、「4年以上」と答えた事業所の合計が62.4%にのぼるという事実です。
しかも、これは後継者がすでに決まっている会社の回答です。誰に継がせるかが決まった後でも、株式の移転や経営の引き継ぎに4年、5年という時間をかけているのが実態と言えます。
「1年以内」と答えた事業所は1割にも届きません。事業承継は、思い立ってすぐにできるものではないことが、数字からもはっきり読み取れます。
後継者が決まっていない会社こそ早めの行動が必要
同じ調査では、もうひとつ気になる結果が出ています。
後継者が「決まっている」と答えた事業所は約4割にとどまり、6割以上は「決まっていない」状態でした。さらに、そのうち約3割の事業所は、事業を続けたい気持ちはあるのに後継者が見つからない、という状況にあります。
帝国データバンクの2025年の調査でも、従業員への承継や第三者への承継が増えている傾向が示されています。
職業の選び方が多様になり、「子どもが会社を継ぐのが当たり前」という時代は終わりました。後継者探しそのものに、これまで以上の時間がかかるようになっています。
「まだ元気だから大丈夫」と思っているうちに、体力の衰えや急な病気で、準備の時間が足りなくなるケースは珍しくありません。
たとえば、後継者を決めて承継の計画づくりを始めた直後に、経営者が体調を崩してしまったとします。取引先とのつながりや資金繰りをすべて経営者ひとりが握っていた場合、引き継ぎが間に合わず、事業そのものが立ち行かなくなるおそれがあります。
これは極端な例に思えるかもしれません。ただ、会社の運営は誰にでもすぐ代われるものではない、という点は多くの会社に共通しています。
経営者が60歳を迎えるころには、承継の方向性を考え始めることをおすすめします。
事業承継で引き継ぐものは3つある
スケジュールを立てる前に、そもそも事業承継で「何を」引き継ぐのかを整理しておきましょう。引き継ぐものは、大きく「人」「有形資産」「無形資産」の3つに分けられます。
人(経営)の承継
1つ目は、経営者というバトンそのものの引き継ぎです。
能力や人柄はもちろん、社員や取引先との関係も考えたうえで、もっともふさわしい人に経営を任せる必要があります。
ここで時間がかかるのが、後継者の選定と育成です。
決算書をじっくり見たことがない、大きな取引をまとめた経験がない。そんな状態のまま社長になってしまうと、本人も周りも苦労します。
各部門での実務経験を積ませたり、役員として経営会議に参加させたりしながら、計画的にリーダーへ育てていくことが大切です。
背中を見て育つのを待つだけでは、どうしても限界があります。
外部の経営塾やセミナーで学ばせる、自社の強み・弱みを一緒に分析する、といった機会を意識的につくることで、後継者は次期経営者として周囲から認めてもらいやすくなります。
有形資産(株式・設備・資金)の承継
2つ目は、目に見える資産の引き継ぎです。
具体的には、自社の株式、工場や店舗などの事業用資産、運転資金、そして借入金も含まれます。
親族へ引き継ぐ場合は、相続や贈与という形で株式を移すのが一般的です。一方、第三者へ引き継ぐ場合は、株式の売買という形になります。
どちらの場合も、税金や資金の問題が必ずついて回ります。
株式の評価額が高い会社ほど、後継者の税負担や買い取り資金の負担は重くなりがちです。移し方やタイミングを工夫することで負担を減らせる場合が多いため、早めに方針を検討しておきましょう。
無形資産(理念・信用・ノウハウ)の承継
3つ目は、目に見えない資産の引き継ぎです。
経営理念、取引先との信用、営業のノウハウ、技術、許認可など、形はなくても事業の力の源になっているものは数多くあります。
むしろ、ほとんどの会社では、こうした無形の資産こそが事業の強みの中心です。
たとえば「あの社長だから取引している」という信用は、書類を渡すだけでは引き継げません。後継者と一緒に取引先を回り、時間をかけて関係を築き直していく必要があります。
これまで培ってきたものをどう次の世代へつなぐか。ここに時間がかかることも、事業承継に長い準備期間が必要な理由のひとつです。
誰に引き継ぐ?3つの承継方法で準備期間は変わる
事業承継の方法は、大きく「親族内承継」「従業員承継」「第三者承継(M&A)」の3つに分けられます。どの方法を選ぶかによって、準備の内容もかかる時間も変わってきます。
まずは3つの方法の特徴を、表で整理してみましょう。
かつては親族内承継がほとんどでしたが、いまは事業への意欲がある従業員が継ぐケースや、第三者が引き継ぐM&Aも着実に増えています。
それぞれの特徴と注意点を、順番に見ていきましょう。
親族内承継 | 育成に時間をかけられるのが強み
親族内承継は、子どもや親戚に会社を引き継ぐ方法です。
早い段階から後継者を決めておけば、じっくり育成の時間を取れます。また、相続を見据えて長期的・計画的に財産を移していけるため、税金の面でも工夫の余地が大きい方法と言えます。
一方で、注意したいのが相続との関係です。
株式や事業用の資産が相続で複数の家族に分散してしまうと、経営が不安定になるおそれがあります。会社を継ぐ子には株式を、他の家族には預金や保険を、といった形で、家族全体のバランスを考えた対策が必要です。
準備期間の目安としては、育成も含めて5〜10年を見ておくと安心でしょう。
従業員承継 | 買い取り資金の準備が課題になりやすい
従業員承継は、社内の役員や従業員に会社を任せる方法です。
長く一緒に働いてきた人が継ぐため、事業の中身をよく理解しており、育成にかかる時間を短くできます。取引先や業務に精通した人へ引き継ぐことができるのも安心材料です。
ただし、課題になりやすいのがお金の問題です。
一般的に、従業員が株式を買い取れるだけの資金を持っているケースは多くありません。金融機関からの借入や、株式の移し方の工夫など、資金面の計画をしっかり立てる必要があります。
また、現経営者と血縁がないため、手続きのうえでは第三者として進める場面もあります。支援機関や専門家との関係づくりを早めに始めておきましょう。
第三者承継(M&A) | 相手探しに時間がかかることも
第三者承継は、社外の会社や個人に事業を引き継ぐ方法で、いわゆるM&Aがこれにあたります。
親族にも社内にも後継者がいない場合の有力な選択肢です。単に事業を残せるだけでなく、引き継ぎ先の販路や仕組みと結びつくことで、新しい成長につながる可能性も秘めています。
M&Aは、方針の決定から始まり、相手探し、条件の交渉、契約、そして経営の統合へと進みます。
後継者を育てる時間は不要ですが、希望に合う相手がすぐに見つかるとは限りません。相手が見つかってからも、秘密保持契約を結んだうえでの情報のやり取りや、会社の調査などに時間がかかります。
また、事業を「売れる状態」に整えておくことも大切です。
業績が混乱したままでは、引き受け手に関心を持ってもらえません。強みを整理し、経営の状態をきちんと説明できるようにしておくことが、良い相手との出会いにつながります。
どの方法を選ぶにしても、早めに動き出すことが結果的に選択肢を広げてくれます。
事業承継スケジュールの立て方 | 時期ごとにやることを整理
ここからは、実際にスケジュールを立てるときの流れを、時期ごとに見ていきます。ポイントは、承継のゴールとなる時期を先に決めて、そこから逆算して考えることです。
5〜10年前 | 現状把握と後継者候補の検討
事業承継の第一歩は、自社の現状を知ることから始まります。
売上や利益といった数字だけでなく、会社の強み・弱み、借入の状況、株式が誰にどれだけあるか、といった点を整理しましょう。自社の実態をあまり理解できていないまま承継の話を進めると、あとから思わぬ問題が出てきます。
現状が見えたら、後継者候補を考えます。
親族の中に候補がいるか、社内に任せられる人材がいるか、それとも第三者への承継を検討するか。この段階で方向性を絞れると、その後の準備がぐっと進めやすくなります。
候補がいる場合は、本人の意思確認も早めに行いましょう。「継いでくれるだろう」という思い込みのまま話を進めて、直前になって断られるケースもあります。
なお、現状を整理した結果、赤字が続いているなど事業の先行きに不安が見つかることもあります。
その場合は、承継の前にまず経営改善に取り組むのが先決です。利益の出る状態に立て直してから引き継ぐことで、後継者も安心してバトンを受け取れます。
3〜5年前 | 事業承継計画書の作成と株式対策
方向性が決まったら、事業承継計画書という形でスケジュールを紙に落とし込みます。
事業承継計画書とは、会社の現状と今後の経営計画をふまえて、いつ・何に取り組むかを具体的に示したものです。詳しい書き方は後ほど紹介しますが、この計画書があるかどうかで、承継の進めやすさは大きく変わります。
あわせて、この時期から株式対策を本格的に始めましょう。
自社株の評価額を調べ、贈与・相続・売買のうちどの方法で移すのか、税金の負担をどう抑えるのかを検討します。事業承継にともなう贈与税や相続税の納税が猶予される制度(事業承継税制)の活用も、この段階で検討したい選択肢のひとつです。
税金の対策は、時間があるほど有利になります。専門家である税理士に相談しながら、計画的に進めていきましょう。
なお、事業継承税制に関する記事はこちらをご覧ください。
事業承継税制とは?税負担を実質ゼロにできる特例の期限・要件・手続きを解説
1〜3年前 | 権限移譲と関係者への説明
承継が近づいてきたら、後継者へ少しずつ経営のバトンを渡していきます。
役員に就任させて経営判断の場を経験させたり、一部の部門の責任者を任せたりしながら、段階的に権限を移していきましょう。株式の移転も、計画にそって進めていく時期です。
同時に大切なのが、周りの理解を得ることです。
主要な従業員、大口の取引先、借入のある金融機関には、タイミングを見て承継の計画を伝えていきます。突然の社長交代は、従業員の不安や取引の見直しにつながりかねません。
丁寧な説明を重ねることで、新しい体制がスムーズに受け入れられやすくなります。
金融機関との話し合いでは、借入金の経営者保証をどう扱うかも大切なテーマになります。
先代の保証を後継者がそのまま引き継ぐのか、見直しを相談できるのか。承継の前に確認しておくことで、後継者の不安をひとつ減らせます。
承継の年|代表交代とその後のフォロー
いよいよ承継の年を迎えたら、株主総会などの手続きを経て、代表を後継者へ交代します。
取引先や金融機関へのあいさつ回りを行い、新体制を正式に発表しましょう。社内に向けても、今後の方針を後継者自身の言葉で伝える場をつくると、気持ちの切り替えが進みます。
ただし、代表交代はゴールではありません。
先代の経営者は会長などの立場でしばらく会社に残り、後継者を支える期間を設けるのが一般的です。少しずつ距離を取りながら、最終的には後継者に完全に任せる。そこまで見届けて、事業承継はようやく完成します。
スケジュール通りに進めるための3つのポイント
スケジュールを立てても、実行できなければ意味がありません。ここでは、事業承継を計画どおりに進めるために押さえておきたいポイントを3つ紹介します。
事業承継計画書で「見える化」する
1つ目のポイントは、計画を頭の中に置いたままにせず、事業承継計画書に書き出すことです。
計画書には、たとえば次のような項目を年ごとに記載します。
会社の売上高や利益の目標
設備の更新や新規事業といった経営上の予定
現経営者の年齢・役職・持株比率の推移
後継者の年齢・役職・持株比率の推移
株式をいつ・どのように移すか
たとえば「現経営者は3年後に社長から会長へ退き、5年後に引退。持株比率は70%から段階的にゼロへ。後継者は部長から常務を経て社長に就任し、最終的に株式を100%持つ」といった具合に、数字と時期をセットで書き込んでいきます。
ここまで具体的にしておくと、いま何をすべきかが誰の目にも明らかになり、進み具合の確認もしやすくなります。家族会議や社内への公表のタイミングまで書いておくと、関係者との共有もスムーズです。
なお、計画書は一度作って終わりではありません。
会社の業績や家族の状況は年々変わっていきます。年に一度は計画を見直して、実際の状況とのずれを直していくことで、計画書は生きた道しるべになります。
税金の対策は早い段階から検討する
2つ目のポイントは、税金の問題を後回しにしないことです。
自社株の引き継ぎには、贈与税・相続税・所得税など、さまざまな税金が関わってきます。何も対策をしないまま承継を迎えると、後継者が重い納税の負担を背負うことになりかねません。
一方で、時間さえあれば打てる手はたくさんあります。
毎年少しずつ株式を贈与して負担を分散する方法や、事業承継税制を使って納税の猶予を受ける方法など、会社の状況に合わせた選択肢を組み合わせられます。
税金そのものだけでなく、納税資金の準備という視点も欠かせません。
株式は財産としての価値はあっても、すぐに現金に換えられるものではないからです。生命保険の活用や役員退職金の設計など、お金の面からの備えもあわせて考えておくと安心できます。
どの方法が合うかは、株式の評価額や家族の構成によって変わるため、税理士と一緒に検討するのが確実です。
ひとりで抱え込まず専門家に相談する
3つ目のポイントは、早い段階で相談相手を持つことです。
事業承継には、税務・法務・労務など幅広い知識が必要になります。経営者がひとりで調べながら進めるには限界があり、判断を誤ると取り返しがつかない場面もあります。
各都道府県には、国が設置した事業承継・引継ぎ支援センターという公的な相談窓口があり、無料で相談できます。
顧問の税理士がいる場合は、まず身近な相談相手として頼るのもよいでしょう。会社の数字を日ごろから見ている税理士であれば、自社の実情に合った進め方を一緒に考えてくれます。
誰に相談したらよいか分からない、という状態こそが承継の一番の壁です。信頼できる相談相手を見つけることが、スケジュールを前へ進める何よりの近道になります。
まとめ
事業承継の準備は、承継の5〜10年前から始めるのが理想です。
福井県商工会議所連合会の調査でも、後継者が決まっている事業所の6割以上が「4年以上の準備期間が必要」と答えており、決して早すぎることはありません。
事業承継で引き継ぐものは、人・有形資産・無形資産の3つ。そして承継の方法には、親族内承継・従業員承継・第三者承継という3つの選択肢があります。
まずは自社の現状を把握し、後継者の方向性を考えるところから始めましょう。そのうえで事業承継計画書を作り、株式対策や関係者への説明を計画的に進めていくことが、円滑な承継への近道です。
会社の未来を託すための準備は、早く始めるほど選択肢が広がります。この記事をきっかけに、最初の一歩を踏み出してみてください。
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電話番号:0770-37-1116
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