個人事業主の法人化はいくらから?元国税局員が教える判断ライン

query_builder 2026/09/14
個人事業主の法人化はいくらから?元国税局員が教える判断ライン


「そろそろ法人にした方がいいのでは」と、事業が伸びてきた頃に一度は考えるかと思います。

ただ、周りに相談できる相手がいなければ、自分の規模で法人化して意味があるのかどうかは判断しづらいところです。

調べれば「所得800万円が目安」という数字はすぐに見つかりますが、その金額が何を指しているのかまで説明されていないことも少なくありません。

この記事では、目安の数字が指しているもの、課税所得以外に確認しておきたい判断材料、法人化した後に増える費用と手間までを順に整理していきます。

読み終える頃には、自分が今動くべき段階なのかどうか、見当がついてくるかと思います。

法人化はいくらから?目安とされるのは課税所得800万〜900万円

法人化を検討する金額としてよく挙げられるのは、課税所得で800万円から900万円あたりです。ただしこの数字は税率だけを比べた場合の分かれ目で、すべての方に当てはまる基準とは限りません。

見るべきは「売上」ではなく「所得」

法人化のご相談でよく見られるのが、売上の金額で判断してしまうケースです。

同じ売上でも検討度合いが変わる例を並べてみます。


Aさん

Bさん

売上

2,000万円

1,000万円

必要経費

1,800万円

200万円

所得(もうけ)

200万円

800万円

法人化の検討度合い

低め

検討する価値あり

売上だけを見ればAさんの方が大きく見えますが、材料費や外注費が多く出ていくため、手元に残るのは200万円ほどです。この状態で法人にしても、税金の面でのメリットは見込みにくいでしょう。

反対にBさんは、売上が半分でも経費が少ないため、800万円近い利益が残ります。同じ「売上いくら」という物差しでは、判断を誤る場合があるわけです。

見ていただきたいのは、売上から必要経費と所得控除を引いた後の「課税所得」です。

確定申告書では税額を計算する元になっている金額にあたりますので、お手元の控えで確認してみてください。

目安を超えても、法人化が向かない場合がある

800万円という数字が出てくるのは、個人と法人で税金の上がり方が違うためです。

個人の所得税はもうけが増えるほど税率が上がる一方、法人の税金は途中から一定に近づきます。詳しい仕組みは次の章で見ていきます。

気をつけたいのは、800万円を超えたら自動的に得になるわけではない点です。

法人になると社会保険料の負担や、赤字でもかかる税金、事務作業の増加といった支出が新しく生まれます。節税できた金額より、これらの負担が上回るケースもあります。

扶養しているご家族の人数や事業の見通しによっても結果は変わります。同じ所得800万円の方が2人いても、片方には向いていて、もう片方には向いていない、ということも起こり得ます。

数字の仕組みを知る|所得税と法人税はどこが違うのか

なぜ800万円あたりで有利不利が入れかわると言われるのか、その仕組みを見ていきましょう。専門的な話に見えますが、押さえるポイントはそれほど多くありません。

所得税は増えるほど重くなる

所得税の税率は、課税所得の大きさによって次のように区切られています。

課税所得の金額

所得税率

195万円以下

5%

195万円超〜330万円以下

10%

330万円超〜695万円以下

20%

695万円超〜900万円以下

23%

900万円超〜1,800万円以下

33%

1,800万円超〜4,000万円以下

40%

4,000万円超

45%

※国税庁「所得税の税率」の区分をもとにしています。このほかに住民税がおよそ10%、事業の内容によっては個人事業税もかかります。

900万円を超えたところで、税率が23%から33%へと大きく上がっているのが分かります。ここが、法人化を考える方に意識していただきたい段差です。

所得税は、所得の区分ごとに異なる税率を適用する「超過累進税率」です。そのため、課税所得が900万円を超えても、33%が適用されるのは900万円を超えた部分に限られます。

それでも、もうけが伸びるほど手元に残りにくくなる性質は変わりません。事業が順調に育っている方ほど、負担を感じやすくなる傾向があります。

法人税は税率の上がり方が緩やか

法人にかかる税金は、法人税・法人住民税・法人事業税などを合わせて考えます。それぞれの位置づけは次のとおりです。

税金の種類

かかり方の特徴

法人税

中小法人は年800万円以下の部分に軽減税率、超える部分は一定の税率

法人住民税

利益に応じた部分と、赤字でもかかる均等割の2つで構成される

法人事業税

所得に応じてかかる。翌年の経費にできる点が特徴

消費税

課税事業者に該当する場合にかかる

※中小法人の軽減税率15%は、2027年3月31日までに開始する事業年度が対象とされています。

防衛特別法人税は、2026年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。税率は、基準法人税額から年500万円の基礎控除額を差し引いた残額の4%です。

これらを合計した実質的な負担割合は、中小企業で20%台から30%台半ばに収まるケースが多いです。

もうけの水準や会社の所在地によって変わるため、細かい数字は個別の確認が必要になります。

押さえておきたいのは、もうけが2倍になっても税率が2倍にはならない点です。この「上がり続ける個人」と「途中から一定に近づく法人」の差が、逆転が起きると言われる理由になります。

役員報酬という第二の効果

税率の差と並んで大きいのが、法人から自分へ給与として支払う役員報酬の仕組みです。

法人化すると、事業のもうけをそのまま自分のものにするのではなく、会社から役員報酬という形で受け取ります。

役員報酬は給与として扱われるため、給与所得控除を使える形になります。会社側では経費になり、受け取る側でも控除が使えるため、同じ金額でも課税される部分を小さくできる可能性があります。

実際に仕事を手伝っているご家族を役員にして報酬を分ければ、世帯全体での負担をならせる場合もあります。

ただし役員報酬は、原則として期の途中で自由に増減できないとされています。期首の段階で見通しを立てて、金額を決めておく必要があります。

課税所得以外で見ておきたい3つの判断ライン

ご相談を受けていると、税率よりも別の理由が決め手になる場面がよくあります。所得の金額と合わせて確認しておきたい視点を3つ紹介します。

判断ライン

確認するポイント

影響を受けやすい方

消費税

課税売上高1,000万円の水準、インボイス登録の有無

取引先が事業者中心の方

社会保険

加入義務が生まれ、保険料の負担と将来の年金が変わる

現在ご家族を扶養している方

信用・資金調達

取引条件、融資の受けやすさ、採用のしやすさ

事業を広げる予定がある方

3つのうち1つでも当てはまるものがあれば、所得が目安に届いていなくても検討する価値が出てきます。

反対に、どれも当てはまらない場合は、急いで判断しなくてもよいケースが多いかと思います。

消費税の負担が変わるタイミング

消費税は、原則として基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、納める義務が生じるとされています。

以前は、個人事業で売上が1,000万円を超えても、法人を新しく設立すれば一定の条件の下で免税の期間を確保できる、という考え方が知られていました。

ただしインボイス制度が始まってからは、状況が変わっています。取引先から適格請求書を求められて登録を受けた場合には、売上の金額にかかわらず消費税を納める立場になります。

そのため、消費税を理由に法人化を急ぐ判断は、以前ほど当てはまらなくなったと言えるかもしれません。取引先が事業者中心か、一般の消費者中心かによっても答えは変わってきます。

社会保険に入る義務が生まれる

法人になると、代表者が一人だけの会社であっても、原則として健康保険と厚生年金保険に加入することになります。個人事業のときと比べて、次のような違いが出てきます。


個人事業主

法人の代表者

加入する制度

国民健康保険・国民年金

健康保険・厚生年金保険

保険料の負担

全額を自分で負担

会社と個人で半分ずつ

将来の年金

国民年金のみ

厚生年金が上乗せされる

病気やけがの保障

傷病手当金は原則としてなし

傷病手当金を受けられる場合がある

保険料の総額で見ると、法人になった方が上がるケースが多く見られます。会社と個人で半分ずつ負担する形になりますが、一人会社であれば結局どちらも自分が出すことに変わりありません。

一方で、厚生年金に加入すれば将来受け取る年金額は増えますし、健康保険には個人事業では使えない保障も用意されています。

負担だけを見て避けるのではなく、受け取れるものと合わせて比べていただくとよいかと思います。

取引先からの見られ方と資金調達

金額の話から少し離れますが、対外的な信用を理由に法人化を選ぶ方も少なくありません。

会社によっては、取引の相手を法人に限っていたり、新規の取引で登記簿の提出を求めたりします。仕事の幅を広げたい段階では、この点が現実的な壁になる場合があります。

金融機関から融資を受ける場面でも、法人の方が決算書の内容を見てもらいやすい場合があります。

人を雇って組織を大きくしたい、大きな設備投資を予定している、といった計画がある方は、税金の損得だけでなく、こうした事業の方向性も判断材料に加えてみてください。

法人化する前に知っておきたい費用と手間

法人化にはメリットだけでなく、新しく生まれる負担もあります。節税額を計算するときは、こうした支出を差し引いた上で比べる必要があります。

設立するときにかかるお金

会社をつくる時点で、いくつかの費用が発生します。株式会社と合同会社では、次のような違いがあります。

項目

株式会社

合同会社

登録免許税

15万円から

6万円から

定款の認証手数料

必要(1万5,000円〜5万円)

不要

収入印紙代

紙の定款:原則4万円 電子定款:不要

紙の定款:原則4万円 電子定款:不要

合計の目安

20万〜25万円程度

6万〜10万円程度

このほかに、会社の印鑑の作成費用や登記事項証明書の取得費用、手続きを専門家に依頼する場合はその報酬も加わります。

金額に幅があるのは、電子定款を使うかどうか、資本金をいくらにするか、どこまで自分で手続きを行うかで変わってくるためです。

株式会社の定款認証手数料は資本金の額によって決まり、一定の要件を満たす小規模な会社であれば1万5,000円まで下がる場合もあります。

どちらの形態を選ぶかは、費用だけでなく、対外的な信用や将来の資金調達の予定も含めて決めていただくとよいかと思います。設立してから変更するには、改めて手続きと費用がかかります。

赤字でもかかる税金がある

個人事業では、もうけが出なければ所得税はかかりません。しかし法人には、利益がゼロでも納める税金があります。

法人住民税の均等割と呼ばれるもので、資本金や従業員数が小さい会社でも、年間でおよそ7万円が最低限かかると考えておくとよいでしょう。

金額そのものは大きくないように見えますが、業績が落ち込んだ年にも変わらず発生する点が、個人事業との大きな違いになります。

売上の波が大きい業種の方は、この固定的な負担を頭に入れておいていただければと思います。

事務作業と専門家への報酬

法人の会計と申告は、個人の確定申告と比べて複雑になります。決算の期限や提出書類の種類が増え、社会保険や年末調整といった手続きも加わります。

すべてをご自身で行うのは負担が大きく、税理士へ依頼される方が多く見られます。

顧問料や決算料の負担は増えますが、その分だけ本業に使える時間を確保できます。手続きに追われて売上を伸ばす活動が止まっては、法人化した意味が薄れてしまうかもしれません。

増える手間をお金で解決するか、自分の時間で解決するか。この視点で費用を見積もっておくと、現実的な比較ができるかと思います

税理士に頼む場合の費用の詳細については、「【福井】税理士費用はいくら?顧問料・決算料の料金相場と失敗しない選び方」をご確認ください。

自分の場合はいくらから?判断を進める手順

思い立ったときにすぐ動くのではなく、順番に確認していく方が失敗を防ぎやすくなります。次の3つのステップで見ていきましょう。

過去の実績と今後の事業計画を確認する

法人化を考え始めた時点で、個人事業の実績が何年分もそろっている方ばかりではありません。まずは開業してから今までの確定申告書を用意して、課税所得の推移を書き出してみてください。

実績が1年や2年でも、伸び方の傾向はつかめます。ただし、単発の大きな仕事で一時的に跳ね上がった年は、そのまま基準にしない方が安心です。

法人化してから所得が下がると、社会保険料や均等割の負担だけが残ってしまう可能性もあります。

その上で、今後の見通しを書き出してみましょう。

継続的な契約がどのくらいあるか、人を雇う予定や設備投資の計画はあるか。判断の材料になりやすいのは、来年以降も続きそうな所得の水準です。

税金と社会保険を合わせて比べる

法人化した場合としなかった場合を、同じ条件で並べて比べます。欠かせない項目は次のとおりです。

比べる項目

個人のまま続けた場合

法人にした場合

事業のもうけにかかる税金

所得税・住民税・個人事業税

法人税・法人住民税・法人事業税

自分が受け取る分にかかる税金

─

役員報酬にかかる所得税・住民税

社会保険料

国民健康保険・国民年金

健康保険・厚生年金(会社負担分を含む)

消費税

課税事業者に該当する場合

課税事業者に該当する場合

その他の費用

─

設立費用・均等割・税理士報酬など

税金だけを比べると法人が有利に見えても、社会保険料まで入れると差が縮まる、あるいは逆転する場合があります。

反対に、ご家族へ報酬を分けられる場合や、退職金の準備まで見据える場合には、長い目で見て差が広がるケースもあります。

役員報酬をいくらに設定するかによっても結果は変わるため、いくつかのパターンで試算してみると、納得のいく判断につながりやすくなります。

自分のケースではどうなるのか、数字で確かめてみたい方へ。小出税理士事務所では、法人化した場合としなかった場合の比較を初回無料でご相談いただけます。

手続きを進めるタイミングを決める

法人化すると決めたら、いつ設立するかを考えます。準備の段階で確認しておきたいことを挙げてみます。

  • 決算期をいつにするか(売上が集中する月と決算作業が重ならないか)

  • 個人事業から法人へ引き継ぐ資産や在庫をどう扱うか

  • 取引先との契約や請求書の名義をいつ切り替えるか

  • 法人名義の銀行口座やクレジットカードの準備

  • 個人事業の廃業届や、消費税に関する届出の提出

設立の前後にやるべきことは、意外と多く出てきます。特に決算期の設定と消費税に関する届出は、提出の期限が決まっているものもあるため、後から変えようとすると手間がかかります。

余裕を持って準備を始めておくと、本業を止めずに移行しやすくなるかと思います。判断に迷う段階で一度専門家に相談しておくと、進め方の全体像がつかみやすくなるかもしれません。

まとめ

法人化はいくらからか、という問いに対しては、課税所得800万円から900万円あたりが一つの目安として挙げられています。

ただし、この数字は税率だけを比べた場合の分かれ目にすぎません。

見るべきは売上ではなく所得であること、そして消費税や社会保険、設立後の固定的な負担まで含めて比べる必要があることを、合わせて押さえておいていただければと思います。

数字の面で条件を満たしていても、事業の見通しや働き方によっては、個人のまま続けた方が合っている場合もあります。

反対に、取引先からの信用や人を雇う計画があるなら、金額の目安を待たずに検討する価値が出てくるかもしれません。

目安の数字を出発点にして、そこから自分の状況に当てはめて考えていく流れが、後悔の少ない選択につながるのではないでしょうか。

とはいえ、税金と社会保険を合わせた試算は手間がかかりますし、ご自身だけで判断しきれない部分も出てくるかと思います。迷ったときは先延ばしにせず、早めに専門家へ相談してみてください。

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法人化は、一度進めると簡単には元に戻しにくい選択です。

だからこそ、思い込みや周囲の話だけで決めてしまうと、後になって負担だけが増えたと感じることにもなりかねません。

小出税理士事務所では、金沢国税局での長年の実務経験を活かし、お一人おひとりの事業の状況に合わせて、法人化した場合としなかった場合の比較をご提案いたします。

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小出規峰税理士事務所

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